6.1.1 禁止令の定義と種類
禁止令とは、幼少期に親や周りの大人から、言葉、態度、行動を通して無意識に刷り込まれた「やってはいけない」というメッセージのことです。それは、ある特定の感情、思考、行動、または存在のあり方を否定する、いわば「心の鎖」のようなものです。禁止令は、私たちの行動や思考、感情に大きな影響を与え、人生の選択や人間関係にまで影響を及ぼすことがあります。
禁止令は、具体的な言葉として伝えられることもあれば、非言語的なコミュニケーションを通して伝わってくることもあります。例えば、親が子供の感情表現に対して怒ったり、無視したりすることで、子供は「感じるな」という禁止令を受け取ることがあります。
禁止令の種類は様々ですが、代表的なものを12個紹介します。それぞれの禁止令は、具体的な言葉として表現される場合もあれば、暗黙のうちに伝わってくる場合もあります。
1. 「感じるな」:
- 言葉:
- 「泣くな」「怒るな」「喜ぶな」「悲しむな」「怖がるな」「甘えるな」「弱音を吐くな」「感情的になるな」「興奮するな」「寂しがるな」など
- 態度:
- 子供の感情表現に対して、怒ったり、冷淡な態度をとったりする
- 子供の感情を無視したり、否定したりする
- 子供の感情表現に対して、嘲笑したり、軽視したりする
- 影響:
- 自分の感情に気づくことができず、抑圧してしまう
- 感情表現が苦手になり、人間関係で苦労する
- ストレスや不安をため込み、心身の健康を損なう可能性がある
- 自分自身の感情を理解することが難しく、自己理解を阻害する
- 他者の感情にも共感することが難しく、人間関係を築きにくくなる
2. 「考えるな」:
- 言葉:
- 「生意気なことを言うな」「疑問を持つな」「自分の意見を持つな」「反論するな」「批判するな」「勝手なことを考えるな」「難しいことを考えるな」「なぜ?と質問するな」など
- 態度:
- 子供の質問や意見に対して、無視したり、否定したりする
- 子供の考え方を否定したり、嘲笑したりする
- 子供の自主性を阻害するような態度をとる
- 影響:
- 自分の考えや意見を持つことを恐れるようになる
- 批判的な思考力を発達させることが難しい
- 自分の意見を主張することが苦手になり、意思決定に苦労する
- 新しいアイデアや発想を生み出すことが難しい
- 疑問や批判を持つことを恐れるため、学びや成長の機会を逃す可能性がある
3. 「行動するな」:
- 言葉:
- 「失敗するな」「目立つな」「主張するな」「行動を起こすな」「リスクを冒すな」「がんばるな」「努力するな」「挑戦するな」「変わろうとするな」など
- 態度:
- 子供の行動を制限したり、干渉したりする
- 子供の挑戦や努力を妨げる
- 子供の失敗に対して、過剰に反応したり、叱責したりする
- 影響:
- 新しいことに挑戦することを恐れるようになる
- 積極的に行動することが苦手になり、チャンスを逃す可能性がある
- 自分の可能性を十分に発揮することができない
- 自信や達成感を経験する機会が減り、自己肯定感が低くなる
- 周囲の意見に流されやすく、自分の意志を貫き通すことが難しい
4. 「欲しがらないで」:
- 言葉:
- 「お金を欲しがるな」「物を欲しがるな」「人に頼るな」「甘えるな」「助けを求めるな」「欲張るな」「もっと欲しいと考えるな」「贅沢を望むな」など
- 態度:
- 子供の欲求やニーズを無視したり、否定したりする
- 子供の努力や頑張りを認めず、価値を認めようとしない
- 子供の要求を満たしてあげない
- 影響:
- 自分の欲求やニーズを認めることが難しい
- 自分自身を大切にすることができない
- 他人に依存しやすく、自分の意見を主張することが苦手
- 自己肯定感が低く、自分の価値を認められない
- 自分の人生を積極的に生きることを諦めてしまう
5. 「自分らしくあるな」:
- 言葉:
- 「おとなしくしなさい」「人の目を気にしなさい」「周りの人に合わせなさい」「目立つな」「変わろうとするな」「個性的であるな」「個性的なことを言うな」「普通でいなさい」「周りのようにしなさい」など
- 態度:
- 子供の個性や才能を否定する
- 子供の自主性を尊重しない
- 子供に自分の考えや意見を押し付ける
- 子供が自分の個性を表現しようとすると、批判したり、嘲笑したりする
- 影響:
- 自分の個性を隠すようになり、本心を表現することを恐れる
- 自分自身を偽って生きるようになり、生きづらさを感じる
- 他人に合わせることが重要だと考え、自分の意見や主張を放棄する
- 自己肯定感が低く、自分の価値を見出せない
- 創造性を発揮することが難しい
6. 「完璧でなければいけない」:
- 言葉:
- 「完璧主義者になりなさい」「失敗したらダメ」「努力が足りない」「もっと頑張りなさい」「もっと良くしなさい」「完璧な人間になりなさい」など
- 態度:
- 子供の小さなミスや失敗に対しても、厳しく叱責する
- 子供の努力を認めず、常に完璧を求める
- 子供の成功よりも、完璧さを重視する
- 影響:
- 常に完璧を目指し、プレッシャーを感じ、不安になる
- 失敗を恐れて、新しいことに挑戦することを躊躇する
- 自信や達成感を味わうことが難しい
- 周囲の人との比較で自分を責め、自己肯定感が低くなる
- 完璧主義に陥り、自己成長を阻害する
7. 「愛されない」:
- 言葉:
- 「愛される価値がない」「愛されるには〇〇をしなければならない」「〇〇しないと愛されない」「あなたは愛されていない」「あなたはダメな子だ」など
- 態度:
- 子供に愛情表現をしない
- 子供を無視したり、冷淡な態度をとったりする
- 子供の気持ちを理解しようとしない
- 子供の価値を認めない
- 影響:
- 他人から愛されることを期待し、不安になる
- 他人との関係に過度に依存する
- 自己肯定感が低く、自分を愛することができない
- 人間関係に不安を感じ、孤独を感じやすくなる
- 愛情を求める行動をとることで、周囲との関係を悪化させる
8. 「ダメな子」:
- 言葉:
- 「あなたはダメな子だ」「あなたはできない」「あなたは役に立たない」「あなたはいつも失敗する」「あなたはバカだ」「あなたは悪いのよ」など
- 態度:
- 子供の努力や頑張りを否定する
- 子供の失敗を責め、子供を傷つける言葉をかける
- 子供に失望感を与えるような態度をとる
- 子供を常に批判する
- 影響:
- 自尊心や自己肯定感が低くなる
- 自分自身の能力を信じることができない
- 失敗を恐れて、新しいことに挑戦することを諦める
- 周囲の人との関係を築くことが難しい
- 自己嫌悪に陥り、心の病気を患う可能性がある
9. 「価値がない」:
- 言葉:
- 「あなたは価値がない」「あなたは役に立たない」「あなたは存在価値がない」「あなたは無駄な存在」「あなたは周りの人に迷惑をかけている」など
- 態度:
- 子供の意見や考えを無視する
- 子供の努力や頑張りを評価しない
- 子供の存在を認めようとしない
- 影響:
- 自己肯定感が著しく低くなり、自信を失う
- 周囲の人々に貢献できないと感じる
- 生きがいを見失い、無気力になる
- 他人と比較し、劣等感を感じやすくなる
- 孤独感を抱えやすく、人間関係を築きにくくなる
10. 「一人で生きていかなければいけない」:
- 言葉:
- 「頼るな」「甘えるな」「人に迷惑をかけるな」「一人でやりなさい」「誰にも頼らないで生きなさい」「自分一人でなんとかしなさい」など
- 態度:
- 子供の助けを求める行動を否定する
- 子供が助けを求めても、無視したり、冷淡な態度をとったりする
- 子供に自立を強制する
- 影響:
- 他人に頼ることができず、孤独感を感じやすい
- 人間関係を築くことを困難に感じる
- 自分自身で抱え込み、ストレスを溜め込みやすい
- 周囲との協調性を欠き、共同作業が難しい
- 助けを求めることを恥じるようになり、心の病気を患う可能性がある
11.「親の期待に応えなければいけない」
言葉:
- 「良い子でいなさい」「期待に応えなさい」「親の言うことを聞きなさい」
- 「親をがっかりさせないで」「親孝行しなさい」
- 「○○しなさい(親の望む進路や職業など)」
態度:
- 親の期待に応えようとしない子供に対して、失望したり、怒ったりする。
- 子供自身の意思や希望よりも、親の期待を優先する。
- 親の期待に沿わない行動をすると、愛情表現が減ったり、冷たくなったりする。
影響:
- 常に親の顔色を伺うようになる。
- 自分の意見や気持ちを抑え、親の期待に応えようと努力する。
- 自己犠牲の気持ちが強くなり、自分の幸せを後回しにする。
- 親の期待に応えられないことに対して、強い罪悪感を抱く。
- 大人になっても、常に誰かの期待に応えなければいけないという強迫観念に囚われる可能性がある。
12. 「あなたはいつも悪い」:
- 言葉:
- 「あなたはいつも悪いのよ」「あなたはいつも迷惑をかけている」「あなたは悪い子だ」「あなたは間違っている」「あなたは問題を抱えている」など
- 態度:
- 子供を常に批判する
- 子供の行動や言動を否定する
- 子供に対して、常に否定的な言葉を浴びせる
- 子供を常に監視し、信用しない
- 影響:
- 自己嫌悪に陥り、自信を失う
- 他人との関係を築くことを困難に感じる
- 自分の行動や言動に常に不安を感じ、ストレスを抱える
- 他人を信頼することが難しく、孤独感を抱えやすい
- 罪悪感や自己嫌悪にさいなまれ、心を病む可能性
6.1.2 禁止令の形成過程
禁止令は、幼少期に親や周りの大人から、様々な方法で刷り込まれます。
- 言葉: 親が子供に対して発する言葉は、直接的な禁止令となる場合もあります。例えば、「泣くな」「おとなしくしなさい」など。
- 態度: 親の態度や表情も、子供に禁止令を与えることがあります。例えば、子供が感情表現をすると、親が怒ったり、冷淡な態度をとったりする場合です。
- 行動: 親の行動も、子供に禁止令を与えることがあります。例えば、子供が助けを求めても、親が助けてくれなかったり、無視したりする場合です。
- 周りの大人: 親だけでなく、周りの大人からも禁止令を受けることがあります。例えば、先生や友達から、自分の意見を言わないように、行動することを控えるように言われたりする場合です。
6.1.3 禁止令の影響: 自己イメージ、行動パターン、人間関係
禁止令は、私たちの自己イメージ、行動パターン、人間関係に大きな影響を与えます。
- 自己イメージ: 禁止令は、私たちの自己イメージをネガティブな方向に歪めることがあります。例えば、「感じるな」という禁止令を受けた人は、自分の感情に気づくことができず、自分を抑圧してしまうことがあります。
- 行動パターン: 禁止令は、私たちの行動パターンを制限することがあります。例えば、「行動するな」という禁止令を受けた人は、リスクを恐れて新しいことに挑戦することができず、自分の可能性を閉じ込めてしまうことがあります。
- 人間関係: 禁止令は、私たちが他者と築く人間関係にも影響を与えます。例えば、「欲しがらないで」という禁止令を受けた人は、自分のニーズを相手に伝えることができず、相手に依存してしまうことがあります。
禁止令の理解の重要性
禁止令は、私たちの無意識に深く根付いており、私たち自身の行動や思考を制限していることがあります。しかし、禁止令を意識し、その影響を理解することで、私たちは自分自身を解放し、より自由で充実した人生を送ることができるようになります。
次のモジュールでは、禁止令を克服する方法について詳しく解説していきます。
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